10月はすぐ袷でしょうか



 9月に入るとすぐに単衣を着始めますが、それは単衣の時期が短いので、いつまでも暑いからと言って薄物を引きずるのはおかしいと思うからです。9月の着物については以前のレクチャー「悩める9月には」を参照して下さい。

 それではすっかり秋めいて来た10月からの着物についてはどうでしょうか。


単衣から袷への狭間の時期


 昔から10月に入ったら即、袷でないといけないと考えられているのですが、もちろん「さあ今日から袷を着られるわ」と思われてほっとする方もいらっしゃるに違いありません。それはそれで正しいことです。特にお茶の世界などでは必ずや袷を着用との考えが強いようです。
 しかしながら10月の上旬から中旬にかけては、晴天率も高く秋空の日が続きます。
 この時期には夏のような陽差しで戸外では半袖でも充分、汗ばむ季節であるのは誰しもが経験したことではないでしょうか。


蜻蛉の染め帯

金通し地に夕焼け初秋の空に群れ飛ぶ蜻蛉を
手押し木版で表している染帯

 余談になりますが昔、東京オリンピックが昭和39年にありましたが、開会日は10月10日でした。その日に決めたのは最も晴天率が高い日だったからだと聞いた覚えがあります。
 その後「体育の日」と名前が変わり祝日となりますが、10月の第2月曜日を祝日とするハッピーマンデー制度を導入すると国が決めたために「体育の日」は毎年違う日となりました。



 私個人的な考えからすると無理に連休にした狙いより10日を固定した祝日に決めておいた方が晴天率が高く気持ち良い祭日だったと思えてなりません。
 成人式も同様ですが、本来の祝日としての意味を失わせる国の政策に疑問を感じざるを得ません。

 話がそれましたが、10月初旬は秋晴れも多いですから、運動会やピクニックも、遠足も各種の体力測定などの行事そしてイベントも多く秋の行楽の季節の始まりです。着物も着やすく楽しい時期が訪れたと言えます。



10月に許されても良い単衣とは


 前置きが長くなりましたが、この10月の上旬から中旬に限って言えば「体育の日」10月10日頃までは、秋晴れの晴天の日に9月の単衣を着ても良いのではと私は近頃考えます。
 教科書通りに考えるのは、もう無理がある最近の気象のような気がいたします。私が仕事に従事した50年前とは大分気象条件も変わってきたように思うからです。それで10月の初旬は単衣でもよいと、数年前から提案しております。

 ごく正式な場所に行くには、やはり袷が正解だと思いますが、カジュアルな場所や趣味のお出かけなら単衣も許されるのではと考えております。

 それではなぜ9月になったら、すぐに単衣で夏の薄物はだめで、秋の単衣は10月に入っても良いかという訳は、単衣というのは裏地が付いていないと言う事だけで、表の生地は袷と同じだからです。
 透いて見える生地ではないですから見た目には袷と同じ素材の生地なので着ている本人にとっては裏がない分涼しいという事なのです。よって、汗ばむ秋は単衣でも良いと思います。
 そして柄物では、9月に着る着物はすでに秋らしい柄を着ますし、織の物でも秋めく色使いや素材が多いのでその点が前の季節を引きずると言うことにはならないからです。

 本格的な秋が訪れて紅葉が始まる手前まではフォーマルな機会を除いて初秋の10月には少しの間は秋は単衣でもよしと提案をいたします。


10月の着物の装い方について



さて次は10月に着る着物や帯についてひと言付け加えます。特に柄や素材についてですが、10月は秋の前半です。秋が深まる11月とは少し違うでしょう。
 袷で良いとはいえ、いきなり重厚な雰囲気の素材や柄ではなく少し軽やかに装って下さい。
 紅葉がたけなわとなり木枯らしが吹き始める晩秋よりは秋の風情を爽やかに感じさせる軽快な着方が望ましいでしょう。秋になり咲く花々や実りを思わせる柄、秋空のイメージなど季節感を表した柄や色も楽しみましょう。
 紅葉や晩秋を感じさせる雰囲気は10月20日を過ぎ、最後の週にかかる頃に着始めればぴったりと季節に添うことになります。
 10月も末になれば肌寒い日も訪れるでしょう。もうそこからはなんと言っても一気に袷が大活躍です。
 気温の高低差がある10月はお洒落のしがいと、着物好きの着こなしのテクニックが試される月と思って、出かける目的や天候に合わせてさまざまなバリエーションで楽しんでみましょう。

気を付ける点をまとめます。 


 今回、このように述べたからと言って迷わないで下さい。あくまで10月は袷という決まりを念頭に置いて下さい。
 それから正式な所へは、やはりなるべく袷を着用として、趣味的な集いやお稽古やお出かけの、ややカジュアルな機会に9月の単衣を活用すれば、汗をかきながらの外出を軽減することができるでしょう。
 そして、たった一ヶ月だけの9月の着物の出番を少しだけ延長し増やすこと、ただし表の生地の素材は袷と同じであることなどが条件です。

 また、肌寒さを感じたら袷をすかさず着ること、せいぜい10月の前半までにすることなどを条件に考えればと思います。

 季節を敏感に自分の体感で判断する事がもっとも大事なことです。自然界は暦通りには行かなくなって来た事を総合的に判断して、着る時期に少しゆとりを持ち自分自身でお洒落を楽しんで下さい。
 自信が無く悩む人は迷わずに10月は袷を着ましょう。今回の提案はちょっと着物に詳しくなった人へのアドバイスでした。

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